7 Sep. - 20 Oct. 2019

ITAMI CITY MUSEUM OF ART

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7 Sep. - 20 Oct. 2019 ITAMI CITY MUSEUM OF ART

25 Apr. - 5 Jul. 2020 MUSEUM OF MODERN CERAMIC ART, GIFU

18 Jul. - 6 Sep. 2020 KURUME CITY ART MUSEUM

ルート・ブリュックを追いかけて。アトリエシムラ(3)色と形のコラージュ

書籍『はじめまして、ルート・ブリュック』にも「色」の章で寄稿してくださった染織家の志村ふくみさんと志村洋子さん。「自然から色をいただく」という考えの元、植物で染めた糸を手織りして生み出す色彩の世界は、多くの人々を魅了しています。

そんなふたりの芸術精神を受け継ぎ、色の世界をより広く伝えていくために3年前に生まれた染織ブランド「アトリエシムラ」が、「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」展のために、会場限定の特別グッズを制作してくれています。前期作品の釉薬の色にインスピレーションを受けた「ストール」と、後期作品の「“アッシュ・トレイ”」に着想を得たコラージュ「小裂の額装」です。

日本とフィンランド。国や時代を超えて「色」というテーマに共鳴したクリエイターは、今回のコラボレーションにどんな思いを寄せているのでしょうか。志村ふくみさんの孫で、アトリエシムラの代表を務める志村昌司さんと、今回のストールのデザインを手がける堀ノ内麻世さんに話を聞きました。全三回の連載でお伝えします。(聞き手:今村玲子 撮影:森 塁)

第三回 色と形のコラージュ

――最後にご紹介いただく展覧会記念グッズは、ブリュックの作品にインスピレーションを受けた「小裂の額装」です。これは、アトリエシムラの裂のアーカイブを使ってコラージュしたアート作品で、アトリエでも制作を続けてきたものですね。

志村昌司 もともとは、10年以上も前に祖母・ふくみが体調を崩して機に乗ることができなくなった時、「それでも何か手を動かしたい」と小さな裂でコラージュの作品を作ったのが最初です。祖母はパウル・クレーが好きで、そのイメージをコラージュしてどんどん展開していったら「ふくみカルタ」というシリーズができた。その後、アトリエシムラを設立した時に、「ふくみカルタ」を発展させて「小裂の額装」というシリーズとして販売をするようになりました。

――フレームはアートディレクターの葛西薫さんのデザインです。

アトリエシムラを設立する時に、葛西さんにブランドのロゴやパッケージのデザインをお願いしました。その時、「コラージュを収めるための洗練された額がほしい」と、フレームのデザインも依頼したのです。ストイックでミニマルなデザインながら、内側に入っている切り込みの角度や、壁掛けやスタンドとしても飾れるなど、とても凝っているんですよ。

フレームの色は薄いグレーです。色々な色から成るコラージュの背景としてふさわしいと考えました。アトリエシムラではグレーを「己を無にし、ほかの色を活かす色」ととらえていて、自らも「色々な人が活きるための場でありたい」と考えていることから、この色が基調色になっているのです。

アトリエシムラで販売している「小裂の額装」。1点1点デザインが異なり、アトリエシムラの世界を身近に感じられるアート作品だ。(写真:刑部信人)

鉱物をイメージしたデザイン

――今回、ブリュックにインスパイアされた「小裂の額装」をプロデュースする、という仕事はいかがでしたか。

これまでの「小裂の額装」と同じデザインではブリュックにインスパイアされたことにはならない。そこで今回は、祖母にも相談しながら新しいデザインを考えました。一番難しかったのは、ブリュックの世界とアトリエシムラのコラージュの世界がどのように結びついているのかを表現し、両者の自然なつながりを感じられるようにする、ということでした。

祖母は書籍『はじめまして、ルート・ブリュック』のなかで文章を寄せており、「タイルの色は鉱物の持つ絶対的な存在の高さ。その色は、たぐいまれなる品格を現している。形はシンプルで知性的であり、何物にもとらわれない。」と綴っています。この文章を軸に試行錯誤し、最終的に鉱物をイメージしたデザインになりました。「小裂の額装」のシリーズとしては初めての形です。

書籍『はじめまして、ルート・ブリュック』。「色」の章のなかで、志村ふくみさんと志村洋子さんが寄稿している。

ブリュックの作品からインスピレーションを受けて、鉱物の輝きを表現した新しい形が生まれた。

――柔らかさと硬さが混ざったようなイメージですね。

アトリエシムラの特色は織り色の美しさなんです。たとえ無地であっても、経糸と緯糸が混じった色はとても複雑で、計算してその通りに出せるものではありません。ブリュックの作品も、焼成の温度によって表情が変わりますよね。透明感のある釉薬の色が混ざったようなところは、アトリエシムラの織り色にも通じると思います。布という素材が持っている柔らかさで、セラミックの硬質な質感や、釉薬の透明感を表現できたら、と考えました。

言うは易しですが、この形にたどり着くまでにはかなり苦労しました。最初はブリュックの陶板の形に見られるきれいな曲線をコラージュで表したいと考えたのですが、織物は直線で構成されているため苦労しました。何度も試作を重ねるうちに、自然に、クリスタルというか、幾何学的な形が生まれました。

 

色が色を呼んでくる

――ブリュックは、1960年代後期から小さなタイルを組み合わせたモザイク作品を作るようになります。いつも手元にたくさんのタイルを置いて、そこに一番ぴったりくるものを当てはめていきました。ある意味、コラージュと似ているかもしれませんね。

コラージュを作る時は、あらかじめ細かい設計図を書いて、ということではなく、画面をだいたい何等分くらいに分けて、それぞれベースになる色を考えます。祖母も「色が色を呼んでくる」と言うのですが、ベースの色を決めると、次はどの色、次はどの色、と自然に決まっていくんです。あまり深く考えないんですよ。ブリュックも細かい設計図があったということではないと思うのですが。

――助手と意思疎通のためのものはありますが、最終的に最適なピースの位置を決めるところは感覚的だったようです。何度もハシゴの上に登って作品全体を確認しながら、ある意味、即興的に決めていったそうです。

はい。志村ふくみという作家もそうだと思います。

アトリエシムラで制作されたばかりのコラージュが並ぶ。それぞれ、ブリュックの作品の色や輝き、質感に着想を得ている。これがフレームに収まり、作品となる。

色の再現はできなくても、表現はできる

――赤系のコラージュは鮮烈な印象がありますね。

祖母が過去に織った裂でできています。イメージソースは、ブリュックの作品「赤い太陽」。これはブリュックがインドを旅した後に制作した作品ですよね。祖母もかつてインドを旅したことがあり、インド茜で染めた糸で濃厚な赤色の作品を制作しました。灼熱の大地からもらった赤、というイメージが共通しているなと感じました。

Rut Bryk, Punainen aurinko, yksityiskohta / Red Sun, detail ca 1967
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art © KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2396

――表現に苦労した色はありますか。

例えば、「“アッシュ・トレイ”」の鮮やかなターコイズブルーは、植物染料の世界ではなかなか出ませんよね。一方で祖母がよく言うのは、「色というのは、隣にくる色で、そういう色に見えるもの」。ずばりその色に染めなくても、色と色の関係性によってその色に見える時があるということです。

祖母が紫色を自由に使えるようになったのは、京都に来て数年経ってからでした。それまでは紫を表現しようと思ったら、赤色と青色を経糸と緯糸に1本ずつ混ぜる。すると、ぼうっと紫色が浮き上がってくる。色の再現はできなくても、そういう方法で色の表現はできるんです。

Rut Bryk, Tuhkavati / Ashtray early 1960s
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art © KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2396

Rut Bryk, Tuhkavati / Ashtray early 1960s
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art © KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2396

――ほかに、アトリエシムラでコラージュを作りながら、話し合ったことや発見したことはありますか。

すべて一点物ですので、まだアトリエで制作を続けているところですが、「ライオンに化けたロバ」のモノトーン・バージョンのような、枯れ草のような渋い色合いのコラージュも作ってみたい、という話を皆でしています。この作品は、マットな質感の表面を引っ掻いたり、模様をつけてちょっと「荒らしている」感じがおもしろくてスタイリッシュでもある。この荒らしたような感じを染織で表現するとしたら、絣が走っているような部分に相当するのかもしれません。

小裂も細かく見ていくと、とても味わい深いんですよ。コラージュのいいところは、そうした小さな裂の魅力を活かせるところ。皆で昔の裂を見ながら、「織物全体はどんな感じだったんだろう」「これはいつ織られたんだろう」と考えるのがとても楽しいんです。

Rut Bryk, Lion (A Donkey in Lion’s Skin) 1957
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art © KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2396

――コラージュ作品はすべて世界に一つしかない一点物となりますね。ミュージアムショップで見られるのを楽しみにしています。ありがとうございました。

工房の庭に咲いていた椿。

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