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初期の絵皿、テストピース(あるコレクターより)

10. AUG 2018

ふと振り返った瞬間、
小さなコーヒーテーブルの上に、
美しいミルキーブルーの絵皿が目に飛び込んできました。

私はコレクターと呼べるような者ではまったくないのですが、「持っているブリュックの作品をひとつ紹介せよ」ということで、写真は、愛知県の北欧家具と雑貨のお店「WIND AND SEA」で出会った、ルート・ブリュックの深型皿です。

たまたま名古屋に行く機会があり、せっかくだからと前から行ってみたかったそのお店に立ち寄り、気づいたら、積み重ねられた「宝の山」を私は夢中でさまよっていました。その時、店内は私ひとりで、店主は、私と作品との対話を邪魔しない程度の、絶妙な音量でジャズをかけていました。

ミハエル・シルキン、キュッリッキ・サルメンハーラ、ビルゲル・カイピアイネン、とにかくすごい。アラビアの博物館にいるかのようです。そして、ふと振り返った瞬間、小さなコーヒーテーブルの上に、それは美しいミルキーブルーの絵皿が目に飛び込んできました。

すぐにわかりました。ルート・ブリュックの40年代初期の作品です。

グラフィックデザイナーとして表紙イラストや版画などを手がけていたブリュックが、アラビアの美術部門ディレクター、クルト・エクホルムの目にとまり、「美術部門専属のアーティストにならないか」とスカウトされたのが1942年。陶芸の教育を受けていなかったブリュックにとって、見るもの触れるものすべてが初めてで珍しかったことでしょう。

私が出会ったこの絵皿はまさにアラビアでのキャリア最初期のもの。職人たちの手によるカップ・アンド・ソーサーやプレート、ボウル、ジャグなどの素焼きに、ブリュックが釉薬を流しかけ、筆を走らせ、窯をのぞき、おそるおそるではありながら、セラミックのおもしろさにのめり込んでいったであろう、そんな初々しい頃の作品です。表面には、代表的なモチーフである蝶、ホタルブクロやスズラン、そして繊細な脚をもつカナブンかハナムグリのような昆虫があしらわれています。とにかく線が細い。でも、どの線も迷いなく、凛と引かれているのが印象的です。

全体のミルキーブルーはこの頃にブリュックがよく用いた色ですが、この絵皿はどうも色ムラが強いようです。それから、絵の向きと、裏側にあるアラビアの刻印の向きが合っていません。もしかしたら、なのですが、これは試作のようなピースだったのかもしれません。

どうか想像してみてください。駆け出しのセラミックアーティストが、いえ、土にも触れたことのないような素人が突然名窯に抜擢され、工房の(おそらく強面の)職人さんたちに鍛えられながら、自分の表現を懸命に追い求めている様子を。美術部門のアトリエの大きなガラス窓から差し込む光の向きがどんどん変わっていき、一日の終わりにも気づかず、釉調の具合をひたすら確かめている若いブリュックの姿を。

だからこそ、稚拙ともとられる色ムラも、絵の向きの間違いも、釉薬の気泡痕も、私にとっては愛おしく、完成度の高いピースよりもいっそう特別に感じられるのです。

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