空間全体がひとつの絵。会場デザインについて
日本で初めてとなるルート・ブリュックの回顧展を行うにあたり、はじめてブリュックの作品をご覧になる方々にとって、印象深い出会いとなるような会場デザインを模索しました。
今回、会場デザインを手がけたのは、フィンランド・アアルト大学で空間デザインを学び、自身もブリュックの大ファンだというデザイナーの齋藤名穂さんと、建築設計ユニットEurekaです。フィンランドで、作品の状況や設置方法などを下調べした上で、ブリュックがセラミック・アートを制作する時に用いた技法と素材の質感をテーマに、空間のイメージを構想しました。
全体のコンセプトについて、齋藤さんと佐野哲史さん(Eureka)は次のように説明します。
「ブリュックの作品を実際に見て、制作過程も知りました。すると繊細で感覚的な表現とは対照的に、その制作手法は構造的で、職人との緻密で論理的なやりとりの積み重ねであることが分かりました。複雑で手の込んだ制作の背景を感覚的に理解するきっかけとなるよう、ブリュックの手法に端を発して会場をデザインしました。
また、半世紀にわたるキャリアを通し、彼女の作品はやがて空間へと広がっていくようになります。ブリュックが描いた作品世界と空間の関係性を追体験できるようなデザインを目指しました」
そのコンセプトを踏まえて、オリジナルの展示壁と展示台を制作。約200点の作品をダイナミックかつ詩的に見せます。
「初期〜1950年代までの陶板が並ぶ部屋には、半透明の壁とケースを設置します。資料を紐解くとブリュックは自身の作品を展示する時、壁面をキャンバスのように見立て、いくつもの作品を配置してひとつの絵画のような“空間”を作り出しました。この部屋でも、半透明の壁越しに作品が空間全体にくまなく配置されるような構図をイメージしました」
「壁とケースの素材には、フィンランドの壁紙ブランド、ウッドノート(woodnote)による紙のテキスタイルを使います。実は、ブリュックはアラビア製陶所に入る以前からテキスタイルデザインを手がけ、その後もフィンランドの大手テキスタイルメーカーのためにデザインを提供しました。
ブリュックは経糸と緯糸の組み合わせによって色彩を構造的に表現していたことから、私たちは平織りの構造を図式化したような、この紙のテキスタイル素材が最適であると考えたのです。手仕事と量産のあいだにあるやわらかい表情を生かし、できるだけ軽やかな半透明の壁や展示台を作りました」
これまで東京、兵庫、岐阜、新潟と、各美術館の空間特性を生かしながら、上記のコンセプトを展開してきました。
最終会場の新潟県立万代島美術館では広い展示空間をほぼそのまま生かし、どのアングルから見ても、まるで「絵本の1ページ」のようにブリュック作品がつらなるよう、作品を配置しています。
ぜひ会場で、作品と空間のハーモニーをお楽しみください。