THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

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THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

倉庫を改装して作ったエフスタイルのオフィス&ショールーム。ショップとしての営業は週2日(土曜&月曜)のみ

新潟散歩⑦エフスタイル

日用品だってアートピースになれる

新潟駅から「女池愛宕」行きのバスに乗って終点まで。そこからほど近く、倉庫が並ぶ静かなエリアの一角に「エフスタイル(F/style)」のオフィス兼ショールームがあります。大きな倉庫をリノベーションした開放的な空間に、自ら全国の職人や工場と一緒に作ったプロダクトが並びます。エフスタイル代表の、星野若菜さんと五十嵐恵美さんに話を聞きました。

大学時代にデザインしたマットは20年のロングセラー

——エフスタイルを立ち上げたのは、約20年前の2001年ですね。

星野若菜
私たちは新潟出身の同級生で、東北芸術工科大学という山形の美術大学でプロダクトデザインを学んでいました。けれど学生時代から、企業におけるインハウスデザインのあり方に疑問を感じていたんです。デザイナーって本当は、ものを作るところから売るところまで、つまり流通までデザインするべきではないか、と思っていて。

もうひとつ、自分たちが生まれ育った新潟で仕事を作りたいと思ったんですよね。私たちデザイナーと、近いところにいる作り手さんが共同で作ったものを、そのエネルギーごと流通に乗せるというやり方をしたい。それで大学を卒業すると同時に、新潟に戻ってエフスタイルを立ち上げました。

——今でこそデザインの役割も大きく広がっていますが、20年前は理解されにくかったのでは。

五十嵐恵美
そうですね、プロダクトデザインも問屋業もお店もやっているので。いまだに自分たちのことを何屋さんと呼ぶのか難しいです(笑)。

エフスタイルの星野若菜さん(左)と五十嵐恵美さん(右) 。プロダクトデザイン、卸業、ショップ運営、経理、広報まですべてをふたりでこなす。

——どのような商品を作ってきたのでしょう。

星野
私たちのまなざしというのは、時代に消費されない普遍的なものづくり。ロングセラーの「DOGGY MAT」は、実は大学3年の時に産学連携のプログラムで山形の穂積繊維工業と出会ってデザインしたもので、20年以上も定番として販売し続けています。

立ち上げ当初の商品はこのマットだけでしたが、これをきっかけに新潟のさまざまな生産者と出会ったり、紹介してもらったりして、商品作りを続けてきました。

DOGGY MAT

——デザインと流通って両立できるものなのですか。

五十嵐
両立や切り分けといった考えはあまりないんです。商品を出荷しながらリニューアルを考えていったり、売り場やお客様の声を聞きながら、すべてが現場で一体となって流れるようにやっている感じ。

星野
私たちの仕事は、作り手とエンドユーザーをつなぐことだと思っていて。自分がデザインをしたくて作るのではなく、エンドユーザーに手渡すため、ものの翻訳をサポートするためにデザインの力を使っているという意識なんです。

広いスペースにゆったりと商品やアートが配置される。「ひとつひとつに酸素をたっぷりと与えるような見せ方をしたい」とエフスタイルのふたり

縁から生まれる自然な営みを信じる

——どんな職人や工場と協働しているのですか。

星野
まずは、私たちが作り手として尊敬できる人たちですね。ものを作ることに集中してきた人たち。その上で、お互いにない部分を補いあえるかどうか。化学反応が大事なので。

産地のこだわりはなく、こちらから生産者を探すこともほとんどないですね。たまたま私たちが出会った人や、そこからつながるご縁で、例えば銅鍋の職人さんが、竹籠の職人さんを紹介してくれたり。その親戚の方が曲げわっぱのお弁当箱を作っていたり。全部、地続き。そこで生まれてくるものを、私たちも信じているんです。お互いに無理なく、少しずつ、自然に営みが発展していく感じですね。

——そこに共通する価値観があるのでしょうか。

五十嵐
基本的にエフスタイルは私たちふたりだけですし、生産者も家族経営の小規模な工場が多いですね。彼らが悩んでいること、「本当はこんなものを作りたい」ということ、とにかく話を聞くんです。その上で、私たちからは売り場に寄り添った目線をお見せする。一緒にものを作りながら、お互いに新しい視点に気づく、そういう関係性です。

——いくつか商品を紹介してもらえませんか。

星野
これは最近できたばかりの竹籠です。呉服やお茶席などの高級な小物や花籠を作っている熟練の職人さんに、もっとざっくりした日用のものを作っていただきました。2、3年かけて厚みや幅、仕上げなどたくさんの試作を経てようやく形になりました。

五十嵐
もともと緻密なものを作っている方が、あえて最もベーシックな編み方をすることで、より技術が際立って見えます。職人さん自身も「自分がまだ知らない世界だ」と楽しんでくださっているのでありがたくて。

星野
これは新潟の亀田縞という木綿織物です。もともと野良着用の生地として、農家の方が農閑期に織っていたものです。それを現代の生活に合わせたパンツやエプロン、風呂敷バッグなどに展開しています。

五十嵐
使い込むと生地がどんどん良くなっていきます。染めに出す糸の色数は少なく、縞のパターンは多様にして、工場がいつの時代にも織り続けられるような柄にしています。取引先も私たちの考え方に賛同して毎年定番としてお店で売ってくれています。作り手から売り手まで、共同作業なんですよね。

ブランディングをしない、ブランディング

星野
新しいものができても、2、3年後に売れ始めたり。とにかくスパンが長いので、自分たちが「絶対いいんだ」と思う気持ちを持ち続けて、世の中のスピード感に振り回されなければ、時間差で理解してもらえると信じています。

「ブランディングをしない、ブランディング」と言われたこともあります(笑)。使う人が選んでくれて、よければずっとそばにいるから。

——エンドユーザー、お客さんはどういう人たちですか。

五十嵐
老若男女国籍問わず、どこにも接点があります。なかでも、ご自身が信じたもの、定番のものを淡々と揃える、というお客様が多いかもしれません。自分で決めるし、自分で工夫もする方ですね。

星野
エフスタイルの商品って、風呂敷みたいにのび代がある。私たちも途中で「あとはご自由にお使いください」と手放すところがあるので、「自らものに介入したい」と思われる方が多い。あと、「少し疲れた時に、主張しすぎず、ただそこにあるエフスタイルのものがいい」と言ってくださる方もいます。

——お店について教えてください。

五十嵐
この場所には2012年に移転してきて、倉庫をリノベーションしました。お店は土曜と月曜の週二日だけ営業しています。それ以外は作り手さんとのやり取りや、できた商品を入出荷する作業をしているんです。

星野
私たちは日用品だけではなくアパレルも何年も同じ型を売り続けていますし、ここに敷いている絨毯も、私たちが10数年使っているものです。お店では、使い込んで経年変化したものに触れていただいたり、メンテナンスも含めて、もののリアリティをお見せできればと思っています。新品の晴れの姿というよりは、日常になじんだ時の魅力をお伝えしたいんです。

日用品だってアートピースになれる

——ところで、エフスタイルの「F」の意味は。

星野
鉛筆の濃さのことなんです。HとBのあいだにHBがあるのに、HBとHのあいだになぜかFがある。唐突だけれど、きっと必要だったから生まれたんだろうと。本来は、私たちのような者がいなくてもいい。でも隙間があって埋められないところで、分断されたものをつなぐFのような存在でありたいなと思っているんです。

ルート・ブリュック展のドキュメンタリー映像を見た時にも共感したんです。アート、工芸、デザインなどが分断されていた時代に、ブリュックはとらわれずにどの世界にもいったりきたりできた。既存の枠にとらわれずに自分で決めて動く、って今だからこそ大事なことかもしれないと思うんです。

日用品だってアートピースと同じくらいのところに立てるんじゃないか、という希望を持っていて。その評価は誰でもなく、自分で決めるものだから。

——最後に、新潟ってどんな土地なのでしょうか。

星野
山があって、海があって、平野があって、お米がとれる。すごく豊か。基本、食べることに困らないから、あまり自分で抱え込む性質ではないかもしれません。港として栄えた町なので、外との交流は昔からあったでしょうし、来るもの拒まず、的なところがありますね。

五十嵐
ものづくりの産地も多いので、作り手さんと初対面で会う時もやりやすいんです。とてもオープンな土地柄だと思います。

——ありがとうございました。

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