THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

EN

THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

佐潟

新潟散歩⑤佐潟

「潟」という漢字をきれいに書けたためしがない。特に、「臼」の部分。左右が切れているようで、つながっていて、うまくバランスがとれない。

うまく書けないのは、私が潟を知らないからにちがいない。
そう思い、ぜひとも新潟の潟に行ってみたかったのである。

そもそも潟(“かた”と呼ぶ)とは、砂丘によって外海から離れた陸地にできた水たまりのこと。水深は浅めで、一部で海とつながっているものや、砂丘にしみ込んだ湧水を水源とするものもある。ちなみに「干潟」は、海とつながっていて潮の満ち引きによって隠れたり現れたりするものだ。

新潟には、日本海沿いに約70キロにわたって広大な砂丘が続いており、それが排水を妨げたために潟や湿原ができたという。戦国時代から江戸末期くらいにかけては、洪水を防いだり、田んぼを作るために大がかりな干拓(水を抜いて陸地にする)が行われた。
現在は、県が認定する16の潟がある。

今回、新潟市の中心から車で20〜30分のところにある佐潟公園を訪れた。佐潟は、1996年にラムサール条約(水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)に登録された、国内最大級の砂丘湖。76ヘクタールという広大な区域には、湿地独自の生態系が維持され、コハクチョウをはじめとする渡り鳥の渡来地となっている。野鳥206種、植物465種が確認され、国や県、そして地元の人たちが「里潟」として大切に環境を守ってきた。

コハクチョウがやってくるのは10月中旬くらいから。訪れたのは9月下旬だったため、水辺は静かで数羽のサギがいるくらいだった。

公園内には野鳥の観察や湿地保全について伝える施設がある。平日の午前中である。何人かのひとがジョギングや犬の散歩でその前を通り過ぎてゆき、トレッキングシューズを履いた年配のグループは施設の人から説明を受けていた。

そこから少し歩いていくと、「自然観察路」を発見。木道の遊歩道で湿地のなかを歩くことができ、動植物を間近に見られる。当然ながらここにもひとけがない。遊歩道に入ると、背丈よりも高いヨシやガマに周囲の音が遮られて、虫の音と、ときどきカエルが水を跳ねる音しか聞こえてこない。

この静けさは少し不安にもなる。一方でこの、水辺に独りきりの、自由な感じ。2年前に訪れたラップランドにも似ている、と思った。

そういえば、「フィンランドと新潟は空の色が似ている」と新潟出身のひとが言っていた。すっきりと晴れることの少ない空の鈍色。そして、どちらも水の風景がいつも近くにあることも似ている。日本海、信濃川、そして潟、平野に広がる水田も含めて、新潟は水に囲まれている。フィンランドにも氷河が後退して生まれた湖や沼が何万とある。だからなのか、常に大気が水分を含んでいるような、霞かかった、寂しげな気分。

むしろ、私はこの感じがとても好きだ。まもなく、シベリアからたくさんの渡り鳥がやってきて賑やかになった湖も見てみたいが、今は、誰もいない、静かな水辺に独りきりでいるのがいい。

帰ったら、「潟」を書いてみようと思う。

 

(追記:10月7日、ハクチョウの第一陣が佐潟に飛来したそうです。やはり、賑やかな湖、見たい!)

Share this article