THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

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THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

新潟散歩①日本海まで600メートル

ルート・ブリュックは追いかけない。ここは新潟だ。

新潟市内に入ったのは、午後2時すぎだった。

「これから、どうやって市内を回ろうか」と考えながら、ホテルにチェックインすると、カウンターに「にいがたレンタサイクル」の文字を見つけた。

にいがたレンタサイクル。市内に20カ所ほどステーションがあって、最初に会員登録(200円)すれば、6時間以内300円でどこで乗り降りしてもいいという。ホテルの人に、「自転車でだいたいのスポットは回れますよ」と言われて、早速登録。荷物を部屋に投げ込んで身軽になり、ホテルの駐輪場から1台引き出して出発した。

行き先は決めていなかった。とりあえず、手にしたガイドブックのページを適当にめくってみた。「旧齋藤家別邸」が目に止まったので、スマホのGoogleマップに入れて、西の方へと漕ぎ出す。信濃川に架かる重要文化財のアーチ橋「萬代橋」を背にして、百貨店や銀行、区役所、ビジネスホテルなどが連なるメイン通り、柾谷小路をするすると走っていく。久しぶりに乗る自転車は、気持ちがいい。

萬代橋

やがて道は大きなカーブを描き、小学校や住宅が並ぶ閑静なエリアへ。歩道の案内板を見て止まり、「旧齋藤家別邸」の方向を確認しようとしたら、「← 日本海」と記されていた。うぬ、齋藤家とは反対の方向か。しかし、日本海を見たい気持ちがむくむくと湧きあがってしまった。

 

たしか、齋藤家は夕方6時まで(10月〜3月は5時まで)開いているはず。まだ3時すぎだし、とりあえず日本海にご挨拶だ。案内板にしたがって、目の前に現れた「どっぺり坂」なる急坂のスロープを、自転車を押してひいふう言いながら登る。全59段。登りきって振り返ると、眼下の建物のあいだに、市のランドマークでもある高層ビル「NEXT21」の頭が見えた。

坂の上には、旧日本銀行新潟支店長役宅がある。昭和8年に建てられた近代和風住宅は、現在は「砂丘館」として市民にスペースを貸し出したり、ギャラリーとして運営されている。自転車を停めて、少しだけ立ち寄ることにした。

受付の人に、砂丘館という名前の由来について尋ねところ、この一帯は日本海に沿って全長70キロにわたって砂丘(新潟砂丘)になっているのだ、と説明してくれた。ちなみに、広範囲に砂丘があるために排水がうまくいかず、内陸に県名の由来ともなった潟や湿地ができたのだそうだ。

ギャラリーでは写真展を行っていた

ひととおり見学を終えて建物の外に出ると、道路に「日本海まで600メートル」と書かれた金属プレートが埋め込まれていた。矢印が指す方向、西海岸に向かって松林の細道がまっすぐに伸びている。

心を踊らせ、再びペダルを踏み込む。松林の向こうに垣間見える水平線がどんどん大きくなって、林の終わりと同時に、広い浜に出た。

日本海だ。

昨日から雨の予報だった。降ってこそいないが、空は厚い雲で覆われ、鈍色をしていた。波はほとんどなく、静かな海風を受けて水面が細かく揺らいでいる。浜から沖へと何本も伸びる波止めの端には、釣り人が糸を垂れていた。そのはるか遠くに、佐渡島の長い影が広がり、目を凝らすと佐渡汽船の小さなシルエットが浮かんでいる。

しんみり。

太平洋を前にした時の高揚感に対して、日本海のこのしんみりとした不思議な感じは一体なんなのだろう。演歌やサスペンスの刷り込みなのだろうか。ただ、確かなのは、ひとりで旅をしたい今の気分には、日本海のこの感じはとて
もふさわしい、ということだ。

自転車を放って浜辺に立ち、しばらくぼんやりと波の揺らぎと雲の流れを眺めていた。風景も、心も、とても静かだった。

静かなる内側から、興味が湧いてきた。

先ほど知った新潟砂丘のこともあり、もっと日本海という環境について知りたいと思った。自転車をさらに走らせ、近くの水族館に行ってみることにした。

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