25 Apr. - 5 Jul. 2020

MUSEUM OF MODERN CERAMIC ART, GIFU

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25 Apr. - 5 Jul. 2020 MUSEUM OF MODERN CERAMIC ART, GIFU

18 Jul. - 6 Sep. 2020 KURUME CITY ART MUSEUM

2020 Autumn NIIGATA

3月上旬のヘルシンキ。海面の氷は溶けてきたが、まだまだ冬景色だ。Photo: Eri Shimatsuka

島塚絵里の「フィンランド、暮らしの楽しみ」(2)

ヘルシンキ在住のテキスタイルデザイナー、島塚絵里さんが、フィンランドからすてきな暮らしのエッセンスを届けてくれるコラムです。第2回目のテーマは「冬の楽しみ」。ブリュックも晩年まで楽しんだというスキーは、フィンランドの人にとって長い冬を健やかに過ごすための、大切なアクティビティなのだそうです。

島塚絵里さん。Photo:Norio Kidera

 

第二回「冬の楽しみ」

フィンランドの冬はちょっと寒いくらいがちょうどいい

フィンランドの美術大学に入学した年の冬、零下10度を切った日があった。寒い寒いと思っていると、同級生が「パッカネン(氷点下のこと)っていい。やっぱり冬はちゃんと寒くないと」と話しているのを聞いて、沖縄からフィンランドに引っ越して間もない私は「そうだね」と素直に同感することができなかった。あれから10年経った今では彼女たちの話がよくわかる。北欧の冬は少し寒いくらいがちょうどよいのだ。

冬は、寒さよりも暗さの方が身にこたえる。寒さは着込めばどうにか乗り越えられるが、暗さはどうあがいても逃れられないからだ。北国の日照時間は本当に短い。夏は白夜で、夜中でもうっすら明るくて、心も浮かれてしまうが、そう長くは続かない。儚い夢のような夏。冬はその逆で、北極圏にあるラップランド地方は何日も太陽がのぼらない日が続く。日光の少ないフィンランドでは、日頃からビタミンDを摂取するように習慣づけられている。

日照時間の短さは生活のあらゆるレベルで影響している。フィンランドに移住してすぐに通い始めた語学学校で間もなく形容詞を学んだのだが、その中にmasentunut(鬱な)という言葉を学んだ。基本の単語の中に入っていることに軽く衝撃を受け、先行き不安な気持ちになったのを覚えている。日照時間と気分の浮き沈みはつながっている。フィンランドの人を見ていても、夏と冬ではテンションが違うように思える。私はフィンランドに暮らして、初めて太陽のありがたみというものを心底感じるようになった。

そんな暗さを緩和させてくれるありがたい存在が雪である。雪が降ると、あたり一面真っ白になり、光を反射してくれるので大分明るく感じられる。一番厄介なのは、0度前後でräntä(ランッタ)と呼ばれるボタン雪が降る時。湿気で芯から冷えるし、雪も積もらないので、寒い暗いのダブルパンチ。一方、温度が零下を切り、雪が降りつもれば、スキーにスケート、そり滑りなど様々なアクティビティを楽しめるのだ。

高い山のないフィンランドでは、寒い冬になにをするのだろうか。土地柄、急斜面を滑るというよりも、比較的平面を滑るスポーツがさかんだ。雪が降れば、うちの裏の森でクロスカントリーができるし、あちこちに小さなアイススケート場ができる。私は首都ヘルシンキからメトロで10分くらい離れた地域に住んでいるが、海や森はすぐ近くにある。自然の近さがヘルシンキの魅力の一つでもある。

東京生まれの私は雪の上での動きがまだまだ鈍いのだが、夫は北極圏の一番南の街、ロバニエミ育ち。走ったりするのは苦手な彼も、スキーをはくと、一気に動きがスムーズになる。そして、少しお腹の出たおじさんたちも、ホッケー靴を履くと、一瞬で動きが俊敏になり、なかなかかっこいいのだ。そういう光景を見ると、しみじみ滑るのが得意な国民なのだと感心する。凍った道の上でも、用心深くペンギンのように歩く私の横を、みな涼しい顔をしてすいすい歩いて行く。氷上早歩き競争なんてあったら、北欧陣は優勝間違い無いだろう。

うちのすぐ裏は保護林になっていて、雪がたくさん降るとクロスカントリーのコースができる。家からスキーを担いで、滑りにいけるのだ。先日、雪がたくさん降った後、久しぶりに晴天だったので、仕事をぐっと集中して片付け、14時頃に森へでかける。一人で行くのは少し勇気がいったが、あまりに気持ちのよい日差しに誘われ森に向かった。

老若男女楽しめるクロスカントリースキーは地味だけれど、まさに全身運動。翌日は全身が筋肉痛になる。そっとしてほしい欲が強いフィンランド人は森ですれ違っても、あまり挨拶をすることはない。旅から帰ってくると、もうちょっと笑顔をみせてほしいと思ってしまうものだが、晴天の日なんかは、道ゆく人もいつもより表情が緩い気がする。

雪が積もった美しい木々を眺めながら滑るのは何よりも気持ちがよい。一人で森を滑るのは、なんだか少し誇らしい気持ちがするし、それと同時に自然の風景に溶け込んでいる小さな自分の存在を感じる。スピードも早すぎないので、散歩をしている感覚で風景を楽しむことができる。

おじいさんやおばあさんがすいすい滑っているのを遠目で追いながら、私はゆっくり滑る。平らなところはよいのだが、初心者の私は少しでも坂になるとへっぴり腰になってしまう。今日もまたおばあさんに軽々と追い抜かされた。焦らず、自分のペースで冬のスポーツを楽しんで、いずれ若者を追い抜かすくらいの腕になっていたいものだ。

やっぱりフィンランドの冬はちょっと寒いくらいがちょうどよい。

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