「お葬式」1957−1958年
ずっと一緒。
1957年。ルート・ブリュックの父フェリクスが亡くなった頃に制作された陶板です。抽象化された6人の黒い影が棺を担いでいる、という重々しい情景を描いていますが、棺の中央には淡いピンク色のハートが浮かび、まわりには花々が今を盛りと咲き誇ります。
ブリュックが幼い頃に両親は別居し、海外に居住する父と一緒に暮らすことはできませんでした。しかし折にふれてブリュックは父と会い、一緒に旅行することもありました。
蝶類の研究者で画家でもあったフェリクスは、ブリュックに多大な影響を与えました。毎年夏に滞在したカレリアの別荘では森のなかで父と一緒に蝶を追い、フェリクスが旅先のイタリアから送る絵ハガキを眺めては、美しい建築や美術に憧れ、イマジネーションを膨らませたのです。それらのイメージは、ブリュックの作品のなかで繰り返し登場することになります。
遠くにいるからこそ、いつも想う。
ブリュックにとって父はそんな存在だったのかもしれません。
さて、この棺の中央にあるハートの下の方に、そっと寄り添う蔓状の小花。これはリンネソウ(リネア・ボレアリス)と呼ばれる、スイカズラ科の低木です。花の色は薄いピンクで、1センチにも満たない、可憐な妖精のような花。フェリクスは、この花を発見した植物学者カール・フォン・リンネを敬愛していたことから、ブリュックにこの花の名前を与えたのでした。そう、ブリュックの本名は、ルート・リネア・ブリュック、なのです。