THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

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多治見・丸朝製陶所「世界一のカップメーカーになる」(二)

二章 「強み」と「好き」を生かしてカップ専門に転向

創業104年の丸朝製陶所(多治見市)は、カップ&ソーサーを中心とする洋食器専門の製陶所です。
日本有数の窯業産地である多治見で、ルート・ブリュック展を開催するにあたり、展覧会の特別グッズ「ヘキサゴンタイル」を丸朝製陶所に作っていただきました。
グッズを作っていただくなかで、「そもそもブリュックも在籍していた“製陶所”ってどんなところ?」と興味津々!というわけで、4代目社長の松原圭士郎さんにインタビュー。製陶所を見学しつつ、波乱万丈の歴史についても伺いました。全3回。

Text Reiko Imamura / Photo Rui Mori

Text Reiko Imamura / Photo Rui Mori

一番奥にあるトンネル窯で24時間かけて素焼きする

カップしかやらないことに決めた

——どん底の製陶所を継いでから、どのように立て直していったのですか。

それまで、うちは真白な食器しか作っていませんでした。
白い食器を発注元に出して、発注元が装飾加工を施し完成品としてその先に納める。いわば、「半製品」しか作っていなかったんです。

国内需要がどんどん落ちていくなかで、それでは勝てない。
いろんなものを作れるようにならないといけない。
それで色釉薬を使うようになりました。しかも、他社ではあまりやらない還元焼成(※)にこだわりました。

通常、色ものを焼くときは酸化焼成という方法で行います。
酸素を含ませた窯で焼くと、発色がよくなり、色の幅も広く安定するんです。
還元焼成はコストがかかり、不良も出やすいけれど、その代わりきちんと焼き締まるので耐久性が高くなります。

(※)還元焼成:陶磁器の焼成は大きく還元焼成と酸化焼成に分けられる。還元焼成とは、酸素が足りない状態で燃焼が進行する。

つまり、品質を求めるお客さんに理解してもらって、そういうところで生き残っていこうと考えたわけです。
その結果、自ずと大手企業の仕事が多くなりました。「安心してもらえる食器づくりをしていけばいいんだな」と、自信にもなった。

素地を研磨して表面をなめらかにする

カップの取っ手をつけるのは熟練の技

スープ皿に釉薬をかける。割合は少ないが、カップ以外の食器も作る

——転写印刷をはじめとする、加工のバリエーションが多いのも、丸朝製陶所の特徴ですよね。

はい。これまでの半製品から脱却して、加飾加工完成をはじめました。やったことがなかったのですべて手さぐりです。

他のメーカーさんを回って、頭を下げて教えてもらいました。
若かったからできたんですよ。この業界って狭いし、一国一城の主が多いから、まず他のメーカーに行かないし、みんなも簡単には見せてくれません。

ふつう、家業を継ぐ子どもって陶磁器意匠研究所や窯業関係学校などの窯業専攻科を出るんです。でも僕は経済学部だし、陶器に全くかかわってこなかった。

逆にいうと、作ることについてこだわりがなかったから、かえって良かったのかもしれません。わからない分、なんでも受け入れたし、「教えてください」って素直に言えたんです。

当時は、「なんでも仕事をやらないと生き残っていけない」と思っていたから、来た仕事は全部受けました。でも、本当になんでもやっていると、相見積もりをとられるし、値段も安いし、結局何も残らなかった。

そこで原点に戻って、うちはカップが一番得意だから、カップしかやらないことにしました。その代わり、世界一のカップメーカーになる。そう決めたのが、8、9年くらい前のことです。

丸朝製陶所が得意とする薄くエレガントなカップ。カップの真円が自重で歪まないように、伏せて管理し、伏せて焼く

素焼きを終えたカップたち、次の工程へと運ばれていく

アポなしで飛び込み営業

——「カップしか作らない」と決めてから、順調に行ったのですか。

はじまりは一軒のコーヒー屋さんなんです。

たまたま静岡に行った時に、夜中に開いているコーヒー屋さんがあって。道路にカウンターを出して、コーヒーを淹れていて、僕の好きな、かっこいい雰囲気だったんです。

コーヒーを飲みながら、「僕、カップを作っているんですけど、よかったらオリジナルを作ってみませんか」って聞いてみた。そうしたら、オーナーが「ちょうど作りたいと思っていたんですよ!」って。

衝撃でしたね。絶対断られると思っていたから。しかも、「丸朝製陶所って名前を入れてください」って言ってくれた。今まで商社の仕事しかしてこなかった下請けのメーカーからしたら、そんなのご法度じゃないですか。すごく嬉しかったです。

丸朝製陶所の名前が入った、「HUG COFFEE」のオリジナルマグカップ。

——ずっしりと厚みのある、かっこいいダイナーマグです。

もともとアメリカで使われていたダイナーマグって、日本製だったんですよ。丈夫で保温性もあるから、アメリカ海軍がたくさん買ってくれて、昔の人は「船舶マグ」って呼んでいました。
それが日本に戻ってきたような感じですね。

白い食器ばかり作っていた頃は、僕ら下請けの末端まで3、4社入るのが当たり前だし、お客さんが工場に来ることもない。
こちらも、誰がどういう風に買ってくれるのかも知りませんでした。

そういう意味では、お客さんと直接会って話しながら作れて、感謝してくれて。やっていて本当に楽しかったです。

こういう仕事をもっとやっていきたいな、と思って、自分が好きなお店に顔を出すようになったんです。
都内でギフトショーや展示会があると、そのついでにアポ無しでいろんなお店に飛び込んでいきました。そうしたら意外にいけるんですよ(笑)。

僕は、サーフィンや洋服も好きなので、アパレル関係ですね。
ちょうどサードウェーブのコーヒーブームが重なって、お店でコーヒーを出すところが増えて、受け入れてもらいやすかった。

(続く)

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