「スイスタモ」1969年
失われた地への郷愁
60年代後半に入ると、ブリュックは小さなタイルピースを使い、抽象的な表現に挑戦していきます。展覧会の後半では、これらタイルレリーフの作品の、ひとつひとつのピースの凹凸が生み出す陰影、厚めに塗られた釉薬の鮮やかな色彩のグラデーションをご覧いただくことができます。
本作品のタイトル、「スイスタモ(Suistamo)」とは、1944年に旧ソ連領となるまで、フィンランドの国土であったラドガ・カレリア地方のとある地名です。この地には古くからある口伝の詩歌や、伝統的な生活、そして言語体系があり、フィンランドの人びとにとって精神的な故郷のような場所だったといいます。 ブリュックも両親に連れられ、カレリア地方をたびたび訪れていました。