フィンランドで見られるブリュック作品:サラ・ヒルデン美術館
フィンランドで見られるルート・ブリュック作品を紹介するコラムです。
今回は、タンペレに向かいます。ヘルシンキから高速バスで約2時間、鉄道で約1時間半。フィンランド第三の都市です。タンメルコスキ川の豊かな水を動力とする紡績工業で大きく発展し、中心地には、1820年創業の老舗テキスタイルメーカー、フィンレイソンの巨大な旧工場が残っています(現在、工場内は商業施設になっています)。近年はノキアをはじめとするIT企業、メーカーの本拠地も多く、いわばフィンランドのハイテク部門を担う都市。世界で唯一のムーミン美術館でも有名ですね。
さて、中心地から少し離れたサルカニエミ(Särkänniemi)半島にあるレジャー施設の敷地内に、サラ・ヒルデン美術館(Sara Hildén Art Museum)があります。タンペレ市の実業家であり、美術コレクターであったサラ・ヒルデン(1905-1993)が、1975年に自身(サラ・ヒルデン財団)のコレクションをタンペレ市に寄託し、1979年にはこれらを収蔵・展示するための美術館をオープンしました。フィンランドおよび海外の近現代美術を中心とする5,000点以上ものコレクションのなかに、ルート・ブリュックの作品も含まれています。
美術館の地階にあるカフェ「Café Sara」で、ブリュックの作品を見ることができます。眼の前に広がるネシ湖を見下ろす気持ちのよいロケーション。やわらかな自然光に満たされたカフェ内の壁4面に、ブリュック、ビルゲル・カイピアイネン、ハンヌ・ヴァイサネン(Hannu Väisänen, 1951-)の陶板・陶皿がゆったりと掛けられています。
展覧会でスポットライトを浴びる作品を見るのとはまた違う、とても親しい感覚があります。順路の途中で入ってきた人びとがコーヒーを片手にひと息つくなか、壁のセラミックたちはそれを見守るでもなく、かといって全く無関心でもないような距離感で、一緒にそこで「やすらいでいる」というたたずまいなのです。ここでは、「鑑賞」しなくてもいい。人びとの生活や営みのなかに、ブリュックの陶板が自然に溶け込んでいる。そんな、リラックスした「ブリュックのある風景」を味わえる場所です。