岐阜県現代陶芸美術館について
緑豊かで広々!周辺散策も楽しい陶芸専門の美術館
2019年から日本を巡回している展覧会「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」。2020年4月から行われる予定(※開幕が延期になりました。2020年4月10日現在)の岐阜県現代陶芸美術館は3番目の会場となります。場所は、日本を代表する陶磁器の産地である多治見市。館名にも「陶芸」の冠がつく、まさにセラミックの本場での開催となります!
というわけで、岐阜県現代陶芸美術館をご紹介します。
Text Reiko Imamura / Photo Rui Mori
多治見で行われる世界最大の陶磁器の祭典
岐阜県現代陶芸美術館は、2002年に、「陶磁器をテーマにした産業振興・文化振興・まちづくりの拠点」として誕生したセラミックパークMINO内に開館しました。以来、日本や世界各地の近現代の陶芸作品を収集し、さまざまな展覧会を開催しています。
多治見市を含む、岐阜県の「東濃」エリアには、「美濃焼」と呼ばれるやきものの歴史と文化があります。美濃焼の名を世界に知らしめたのは、3年に一度行われている世界最大級の陶磁器の祭典、「国際陶磁器フェスティバル美濃」(今年は9月に開催予定)です。
同美術館の学芸員、山口敦子さんは次のように説明します。
「国際陶磁器フェスティバル美濃は1986年から開催され、世界中から何百もの陶芸作品が多治見に届きます。2002年に岐阜県現代陶芸美術館がオープンするまでは、市内の体育館で受賞・入選作品の展覧会をしていました。当館が生まれた理由のひとつは、このフェスティバルの中心会場として、審査や展覧会を行うことでした」
30数年を超えるフェスティバルの歴史のなかで、東濃地域とフィンランド人作家との交流が長く続いてきました。
「ガラス作家のティモ・サルパネバもフェスティバルのために来日しました。数年前には、アラビア所属のカティ・トゥオミネン=ニイーットゥラやクリスティーナ・リスカが審査員を務めるなど、フィンランド人作家は審査員として定期的に岐阜県にいらしています。当館の収蔵品で、北欧、特にフィンランドの作品が充実しているのは、フェスティバルが築いてきた歴史と当館開館以来の取り組みによるものです」
美術館の展覧会の指針
岐阜県現代陶芸美術館で行われる展覧会は、やはり陶芸に関わるテーマが多いようですが、同館ならではの特色も。
「この地域でやきものに関する文化施設はすでにたくさんあります。ですから当館では日本のやきものだけではなく、世界も含めて今、陶芸で何が起きているのか、あるいは近代で何が起きていたか、ということに力を入れていますね。
また当館は陶芸だけではなく、デザインや工芸全般も取り上げます。多治見は食器を生産している町でもあり、アート作品だけではなく、プロダクト(量産品)を収蔵していることも特色です」
山口さんによると、「日本のやきものは、アートとプロダクトが分かちがたく、結びつきながら発展してきたところがあり、どちらか一方だけでは語れないと思っています」とのこと。
明治時代には、国が陶磁器を重要な産業のひとつとしてとらえ、輸出や人材育成に力を入れていました。そこに作家が関与していく機会は多かったといいます。東濃は、食器やタイルといった窯業の産地であると同時に、たくさんの個人作家が活動している地。その歴史や風土を踏まえると、ここでアートとプロダクトの両方が紹介されるのは、自然なことなのです。
広々とした環境でリフレッシュ
「来館者のなかに一定層の陶芸ファンはいますが、企画によっては全く陶芸を見たことがない方もいらっしゃいます。この環境が好き、と言ってくださるお客様も多いんですよ」と山口さん。
世界的に著名な建築家・磯崎新さんが設計した、緑豊かな環境のなかにあるセミラックパークMINOは、市内を一望できる高台にあり、準絶滅危惧のシデコブシをはじめとする貴重な生態系が保全される森を散策することもできます。
セラミックパークMINOの外壁には、地元の陶磁器、タイルやレンガがたくさん使われています。展示室は二つあり、主に企画展とコレクション展を同時に開催しています。どちらも「白い空間(ホワイトキューブ)のなかで陶芸を美しく見せる」をコンセプトに、トップライトや大きな窓からの自然光を取り入れています。
「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」展が行われる時期(4月〜7月)は、新緑の美しい、心地よい季節。周辺には、美濃焼の展示施設やギャラリーもありますので、多治見のやきもの散策も併せて楽しむことができます。