THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

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THE NIIGATA BANDAIJIMA ART MUSEUM

今のやきものを文化として発信する拠点、多治見の新町ビル

2019年オープン。
まるでシャツを選ぶように、やきものに触れられる場所

JR多治見駅から徒歩15分。多治見橋から土岐川を渡り、趣のある多治見銀座商店街の手前に、「新町ビル」はあります。

築50年の空きビルを改装し、2019年秋に生まれたばかりの新町ビルは、地元多治見の飲食店や雑貨店、ギャラリーなどが集まる複合ビル。ここで、「若い世代がやきものを文化として発信している」という噂を聞き、行ってみました。

Text Reiko Imamura / Photo Rui Mori

作家ものからプロダクトまで

新町ビル2階の「山の花」は、やきもののセレクトショップです。取り扱うのは、多治見を含む東濃地域のやきもの。若手の作家ものから、手に取りやすいプロダクトまで、オーナーである花山和也さんの個人的なセレクトのほか、作家さんの持ち込みや、推薦による作品も。

コンクリートあらわしのラフな空間に、やきものの個性を生かす、シンプルな什器がならびます。什器は、名古屋の稲熊家具製作所によるオーダーメイド。

フロアの奥にはキッチンも

「多治見って数千人も陶芸作家さんがいると言われているんですよ」と花山さん。

「作家といっても、人間国宝から、世界的に有名なアーティスト、あるいは20代でアルバイトをしながら制作している人、30、40代で働きながら作り続けている人たち。年代も技法も幅広くておもしろいです。東濃のやきもので今何が起きているか、を伝えるラインナップです」(花山さん)

新町ビルを訪れる人も20代から60代まで幅広く、一番多いのは30、40代。多治見市だけでなく、近隣の瀬戸市、岐阜市、名古屋市、また県外からも訪れています。20代の若い人が、シャツや靴を選ぶように、やきものを手にとる姿が新鮮です。

「僕は目利きではなくて、ただのやきもの好き。店では、作家ものも、メーカーの大量生産品も、ものの価値がフラットに見えるようにしているんです。世の中にある優劣とか関係なく、その人がいいと思えばそれがその人の価値。あとは、値段と機能、好き嫌いで選んでもらえたらいい」(花山さん)

新町ビルファウンダー、「山の花」オーナー、花山和也さん

陶芸の街で自分たちなりのスタンスを模索

花山さんは、この新町ビルのファウンダーのひとりでもあります。4階のギャラリーショップのオーナーである水野さんと一緒に、コンセプト作りから、フロア構成、内装計画、コンテンツ企画まで行っています。

新町ビルの屋上では、ひそかに盆栽も展開中

花山さんはもともと名古屋で家業の仕事をしていましたが、廃業をきっかけに、多治見で陶芸家をしている先輩の制作アシスタントをすることに。すぐに陶芸の魅力に引き込まれていきましたが、花山さん自身は「何かを作るよりも、それを売ったり、伝えていくことにおもしろさを感じた」といいます。

その後、ふたりの陶芸家と共に「サードセラミック」という生産販売ブランドを立ち上げ、マネジメントと営業を担当。そのなかで、ある使命感を感じたそうです。

「産地って何でも作れるし、作りたい人もいっぱいいる。でもそれをうまく発信したり、つなげていく役割の人が少ないんです。そのために外からデザイナーを呼んでくるプロジェクトもありますが、僕はそうではなくて、産地のなかにいながら、それをマネジメントしていくことが必要だな、と思ったんです」(花山さん)

地域の作家をつなぎ、発信していくために場所が必要。そう考えた花山さんがビルを探していたところ、出会ったのが、この築50年のビルでした。

「20年間空きビルだったそうで、見に来たらボロボロで、手をつけられない感じでした。色々な人に相談して見てもらったら、みんな『やめたほうがいいよ』という。ボロボロだし、何年使えるかわからないし、改装もお金がかかるし。大人の意見として『やめとけ』と。そのなかでひとりだけ『いいじゃん、借りちゃいなよ』と言ってくれたのが水野雅文さんでした」(花山さん)

花山さんは、名古屋でやきもののつながりで水野さんと知り合い、色々なことを相談していました。水野さんは当時、古いビルの1フロアをリノベーションして、洋服やアンティーク雑貨を扱ったり、古材を活用した家具を販売するお店で店長をしていました。

「花山さんから話を聞いて、このビルを見に来たとき、絶対カッコよくなるってイメージがわいたんですよね。それに、僕自身もここで一緒にやれる、協力できることもあるかなと思って。それで、すぐに背中を押したんです」(水野さん)

4階のギャラリーショップは水野さんが運営しています。水野さんがセレクトしたやきものや古物のほか、外部のセレクトショップを招いてポップアップイベントをしたり、作家の個展や企画展も行っています。

新町ビルの4階はセレクトショップとギャラリーが融合した空間。2階とは違う雰囲気

水野さんが全国から集めた、タイムレスでオリジナリティのあるやきものやオブジェが並ぶ

2階の「山の花」が東濃地域限定のセレクトであるのに対し、4階は全国からの選りすぐり。この日は、名古屋のセレクトショップ「fons」が北欧で買い付けた雑貨を出店して、蚤の市のようににぎわっていました。

「ここはやきものの町。でも、やきもの以外のものが楽しめる場所がもっと増えても良いと思うんですよね」と水野さん。

「陶芸をやっている人たちだって、古いものが好きだったり、好きな洋服があったりする。さまざまな要素を含めて文化として発信することが必要。県外から出店しにきてもらったり、僕らも積極的に外に出店していきます。そこでまた新しい交流が生まれる。そういうことが大事かなと」(水野さん)

そんな水野さんがセレクトするのは、「何年前にあっても、何年後にあっても、きっといいだろう」と思うもの。さらに、その作り手の個性が溢れていればなおいい、とのこと。

新町ビルファウンダー、「4階」のオーナー、水野雅文さん

今のやきものを発信していく拠点として

新町ビルができたことで、作家はもちろん、そこに興味をもった人が集まり、交流し、またそこから新しいことが始まっている様子。多治見の町にとっても、変化はあったのでしょうか。花山さんはこう話します。

「多治見には意匠研究所と、工業高校の専攻科というふたつの陶芸の学校があるんです。今まで、両者の交流は少なかったんですよね。でも、ここでイベントを行った時に、ひとつのテーブルに両者の学生が座って話しはじめた。彼らが出会うことによって、これから何かが起きるかもしれない。この場所が、そういうきっかけになれたら嬉しいです」(花山さん)

今年の秋には、多治見で12回目を迎える国際陶磁器フェスティバルが行われます。メイン会場は岐阜県現代陶芸美術館のあるセラミックパークMINOですが、市内数カ所で行われる予定の関連イベントの企画にも新町ビルが関わっているとか。

「フェスティバルでは器だけではなくて、セラミックのオブジェのコンペも行われるんです。4階ではインテリアも扱っているので、使うだけではなく飾ることを楽しむ世界がもっと広がればいい。新町ビルでは、器と合わせてオブジェも紹介したり、展示販売する企画を考えているところです」(水野さん)

1階では、特別出店していたコーヒー店のコーヒーを飲みながら、やきもの好きの人も、たまたまふらっと入ってきた人も、楽しそうに過ごしていました。セレクトショップというかたちで、今のやきものを発信していく新しい拠点として、これから色々なことが起きていきそうです。

新町ビル
岐阜県多治見市新町1丁目2-8

山の花
ウェブサイト https://yama-no-hana.com/
インスタグラム https://instagram.com/yama.no.hana

山の花/新町ビル オンラインストア https://zuno.base.shop/

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