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今こそ、改めてブリュックをきちんと見たい!

07. DEC 2018

最近ますます、ルート・ブリュックが気になっている

「Satoko Sai + Tomoko Kurahara」(サトコサイ・プラス・トモコクラハラ)として活動する陶芸作家の崔 聡子さんと蔵原智子さん。フィンランドで陶芸を学び、アートプロジェクトを行うなど、同国とも縁の深いふたり。アートとデザインの中間にあるような表現や、さまざまな技法を果敢に試す姿は、どことなくブリュックと重なります。「以前とはブリュックのとらえ方が違う。改めてブリュックをきちんと見たい」と話すふたりに、ブリュックのこと、また自身のプロジェクトや陶芸の魅力についても聞きました。


(右)崔聡子さん(左)蔵原智子さん。おふたりのアトリエにて。

――今日は窯出ししたばかりの、イヤーズプレートを見せていただきます。

蔵原智子 イヤーズプレートは10年くらいつくり続けています。毎年コンセプトを立てるのですが、今回はシンプルに釉薬に特化して、自分たちが惹かれた「色」を主役にしてみました。近年興味のある渋めの色をテストして、一番きれいにできたのが、この飴釉と黄色の釉薬の重ね掛けです。

崔 聡子 飴釉はさまざまな国や時代で使われていてとてもポピュラーな釉薬。私たちは黄色の釉薬と組み合わせることで、自分たちらしい飴釉のシリーズをつくりたいと思いました。四角、ストライプ、チェックなどの模様の上に飴釉を掛けることで、境界線に釉薬が溜まって色が濃くなったり、一枚一枚違う表情になります。

 2019年のテーマは「yellows」。釉薬そのものの魅力を楽しめる。2018年12月11日(火)〜12月25日(火)までUTRECHT(ユトレヒト)で展示販売。utrecht.jp

 

――シリーズによって、転写、鋳込み、手びねりなど、押し型など、さまざまな技法にフォーカスしていますね。

崔 毎回技法を変えるのも大変ですが、ふたりでやっているので、「次はこういうやり方で」と話し合いながら、どんどんテストをしていくのが楽しいんです。

蔵原 15年くらい前にユニットをはじめた時は、型と転写という技術がベースでした。同じ技法で100個つくるけれど一つひとつ違う、という考え方で。今もその考え方は変わっていませんが、使う技法は毎回違うし、土も、赤土も白土もやるし、混ぜたりもします。よく「何焼きですか」と聞かれるけれど、一言では答えられない(笑)。

崔 釉薬に興味が出てきたのも、はじめの頃とは変わってきている。なので、最近はますます、ブリュックが気になっているんです。違うことを大胆にやっている感じがするので。以前は、ブリュックは「色んなことをやっている不思議な作家」というイメージでした。でも、自分たちの興味や関心が変化している今こそ、改めてブリュックをきちんと見てみたい。釉薬も技法も魅力的だし、具象や抽象の表現にも取り組んでいて、その流れを日本でまとめて見られるのが本当に楽しみなんです。

「Year’s Plate 2018 チェックと風景」2017 photo: Ikuko Takahashi

 

もっときれいな色を使いたい、
もっと自分でコントロールしたい

――ふたりがユニットをつくったきっかけは?

崔 同じ大学の工芸科で陶芸を専攻していたんです。卒業制作の時、共通のアルバイト先でお世話になっている方がいたので、私がつくった陶器のカップに、蔵原さんが転写をして贈り物にしました。そうしたら「おもしろいからもっと続けたら」と言ってくださって。卒業後、蔵原さんがフィンランドに留学するまでに半年くらい時間があったので、ブラッシュアップしたものをつくって展示をしました。

蔵原 「絵葉書のように風景を家に持ち帰る」というコンセプトで、ヘルシンキと東京の風景写真を転写したカップを渋谷のセレクトショップで展示したら、完売に。それで嬉しくなっちゃって(笑)。私がフィンランドに行ってからも、手紙でアイデアを送り合って、新しいコレクションを制作しました。


「collection1 land」2002 photo: Mareo Suemasa

 

――ブリュックもある時期、転写の技術を作品に取り入れていました。蔵原さんはなぜ、陶器に風景写真を転写しようとしたのですか?

蔵原 大学にあった共有の釉薬を使っていたのですが、その色が好きになれなくて。もっときれいな色をつくりたい、もっと自分でコントロールしたいと思ったんです。転写は釉薬に比べて自分の画作りができる。一度焼いてみたら映像が質感を伴って立体になることにとても面白さを感じて、すっかりはまってしまいました。

 

――一方、崔さんは、インスタレーションとして陶芸に取り組んでいたのですね。

崔 陶芸学科だったのですが、「これぞ、陶芸」的なものをつくるのにあまり興味を持てなくて。それよりもデザイン、アート、ファッションから刺激を受けることが多かったですね。当時はオランダやイギリスのデザインがすごく楽しくて、私たちもアート、デザイン、クラフトの中間のようなことができないか、とよく話していました。

蔵原 私が「フィンランドで陶芸を学びたい」と思ったのも、ブリュックに限らず、一人のデザイナーがプロダクトもアートピースもつくれるところに憧れたから。日本だと、陶芸は陶芸、工業デザインは工業デザイン、と棲み分けがはっきりしている。そうではなく、もうちょっと自由にできたらな、と思ったんです。それと当時は、アラビアの工場が大学に隣接していて、学生が工場のなかで陶芸のプロジェクトをやることができました。より専門的に取り組めるのも面白そうだと思ったんです。


「collection2 MORANDI’s White」2003-2004 photo: Mareo Suemasa

 

「パーソナルなもの」に興味がある

――2011年に、フィンランドの写真家マルヤ・ピリラさんと共同で「インナー・ランドスケープス トゥルク」というアートプロジェクトを行いました。

蔵原 マルヤは、カメラ・オブスキュラという方法を使って部屋のなかに外の風景を映し出すインスタレーションを制作しています。私たちも器のなかに風景を転写するので、どちらも「内側の風景」ということで「インナー・ランドスケープス」というコンセプトをつくりました。フィンランドのトゥルク市内に暮らす9人の高齢者を取材して、マルヤはモデルを撮影し、私たちは彼らが語る昔話を元に「肖像」としての陶器を制作したんです。器の内側に、アルバム写真や手紙といった過去の断片を転写しました。

崔 もともと私たちは「パーソナルなもの」には興味があって。作品の転写に使う風景写真などは、自分たちが実際に訪れて撮影した場所や、国内外に暮らす友人に撮ってもらった写真などを使うことが多い。そういったごく個人的な風景や視点、物語であっても、突き詰めていくと多くの人に通じる普遍性があるのではないかと思っていて。「インナー・ランドスケープス トゥルク」の展示を見てくださった方からも、「この“レイナさん”の陶器に親近感を覚える」と言っていただいたのが嬉しかったです。


「inner landscapes, turku」2011 photo: Mareo Suemasa

 

――ブリュックの作品もパーソナルなところがありますよね。

崔 むしろ、パーソナルな部分しか感じません!

蔵原 ふたりともソフィ・カルや、ブリュックの長女で現代アーティストのマーリア・ヴィルカラの作品が大好きなんです。どこまで本当なのかはわからないけれど、とても私的で、物語や小説みたいな感覚もある。トゥルクの時は、日本ではない国ということもあって、より物語性の高い表現になったと思います。

 

――現在、その東京版である「インナー・ランドスケープス 東京」を制作中とのことです。

蔵原 はい。この秋にマルヤも来日して、東京に暮らすモデルさんへの取材を終えたところです。

崔 トゥルクの時から自分たちも歳を重ねていることもあって、取材したモデルの方々の考え方や人生、思い出話が、以前よりも自分たちに近いように感じています。今回は特に子ども時代の話を中心に聞いていたからか、その方たちが少年少女のように見える瞬間がありました。実際の作品の制作はこれからですが、トゥルクの時とは違う表現になりそうです。2019年中にはかたちにしたいと思っています。また作品だけでなく、カタログや映像もつくる予定です。

「inner landscapes, tokyo」リーフレット 2018 graphic design & photo: Ryuto Miyake

 

――これからやっていきたいことはありますか。

蔵原 まずは「インナー・ランドスケープス 東京」を完成させること。また、こうしたアートピースやプロジェクトと同時に、「デイリーライン」と呼んでいるカップやプレートなど日常で使えるものを、二本柱でバランスよくつくっていきたいです。

崔 陶芸の魅力は、やはり予想を超えて「わあ!」となるものが窯から出てきた瞬間。それが一番楽しいんですよね。転写をはじめ、自分たちなりの技法を重ねていくことで、新しい色や質感に出会いたいです。

 

――最後に、おふたりの好きなブリュック作品を教えてください。

蔵原 私は、後期のタイルの作品ですね。留学時代に最初に出会ったのが、当時アラビアの工場の入り口に設置されていた大型のタイル作品でした。

崔 私はあまり絵を描かないので、初期の絵の作品が気になります。さらに、そこからタイルの作品に移行していくのがほんとうにすごい。女性として自分自身も生活も変化していくなかでつくっていったという流れが感じられる。同じ女性としてその変遷に共感するし、今だからこそ、ルート・ブリュックってどんな作家だったんだろうという興味があります。

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